himechan
人間には概ね欲がある。ほしく思う。願い求める。満たされることを求める心。
お腹すいたからご飯が食べたい、眠いから寝たい、セックスしてえ、ポルシェが欲しい、色違いのギャラドスが欲しい、人類の頂点に立ちたい、などなど。
そして欲を満たすには概ね対価が必要である。
ご飯もポルシェもほしければお金が必要であり、お金が必要なら労働の対価で支給されるので働かなくてはいけない。
睡眠も寝床を持っていなくては十分に満たされることができない。
そしてFF14においてのポピュラーな欲といえば『◯◯(アイテム)が欲しい』
アイテムと言っても様々で、それは可愛らしいミニオンだったり強い武器だったりするわけだが、これは自信を持って言える。
『人が欲しがるものは対価がそれなりに必要である』
まずここに1人のFF14をプレイする女性を用意する。
彼女はミニオンが欲しかった。それはとてもかわいらしい蝶々のミニオンである。
リムサ・ロミンサのエーテライト前で持っている人を見つけてしまった、ああかわいい、これはどうして手に入れるんだろう。
彼女はまずマーケットボードを見た。行動のコストとしてはおそらく最も安い。
そこに提示されていた金額は彼女の手持ちを遥かに凌駕していた。彼女の蝶々を思う気持ちがどれだけ強くてもシステムの壁は超えられない。
次に彼女は考えた。マーケットに並ぶということは入手方法があるはずだと。
自分のiPhoneを取り出しGoogleで検索。少々面倒くさい。しかし彼女の欲は面倒を上回ったためにこの程度のコストは惜しまない。
どうやらダンジョンをクリアした際に低確率でドロップするようだ。
ここで彼女は考える。ネットでは50回クリアしてもドロップしないという報告が出ている。仕事から帰って食事風呂、寝るまでできるゲームは差っ引いても3時間。その中でもやっておきたいデイリーなどを加味して1日2~3回くらいしか回れない。そうしたらFCやLSの人達と遊ぶ時間も減ってしまう、ああどうすればいいの。
彼女は更に考えた。そんな時間を削っても必ず手に入るとは限らない。
コストを掛けるのはいいとしてもそのコストが報われるとは限らない。
彼女は思った。金策をしたほうが確実では?
しかし彼女は金策などしたことがない。余剰にもらったマテリアなどを売り、日々のテレポ台を稼いでいる。またもやiPhoneを手に取りGoogleを開いた。
2週間後、ギャザラーを始めて鉱石を掘り、それを売ったお金で念願のミニオンを購入。欲しかったものが手に入り、またギャザラーという新たな喜びを得た彼女は微笑んでいた。めでたしめでたし。
彼女はhimechanにはなれません。
なぜなら問題解決能力と倫理観が人並みにあります。
ではここからhimechanを精製していきましょう。
まずは問題解決能力を取っ払います。
彼女はミニオンが欲しい。でも入手する方法がわからない。
クソが!と自宅のぬいぐるみを投げてふて寝しました。
めでたしめでたし。
彼女は問題を解決できませんでしたが、残念ながら倫理観があったために、対価を払えない自分は入手する資格がないとふて寝しました。あまりにまっとうな人間です。
更に彼女は、FCのオスッテナイトから『ミニオン買ってあげようか?』と持ちかけられます。
安価なものならまだしも、誕生日でもなければ貸しもないのにお菓子一つあげるねくらいの感覚でゲーム内マネーとはいえここの通貨であんな高額なものをもらうのは気が引けたのできっぱりとお断りしました。あまりにまっとうな人間です。
himechanとしてはあまりに人間が出来すぎている。倫理観やモラルもドカンと消してしまいましょう。
無事だらしない女になった彼女は、オスッテナイトにミニオンを頂いてしまいます。
『うれしい!ありがとう!』彼女は願いが叶ったことに喜びを爆発させます。
さてこのオスッテナイトくん、ぱっとみはイケメンのチャラ男ですが、中身は童貞で女性とあまり触れ合ったことのない†おたく†でした。
女性感を隠さない彼女の明るくて柔らかい言動は今まで接したことのない人種。しかもそれが自らの行動により引き起こされたとなると喜びは格別。ナイトくんはいま初めてスマートフォンに触れた江戸時代の人のようになっています。
彼女は"高い物をくれた優しい人"とナイトくんを認識し、その日から彼に愛嬌を振りまきます。感性を色々抜いた彼女は抜け殻のアホと化したので本能で生きています。
彼女はある日、新しくリリースされたダンジョンに行こうとしましたが、過去に失敗して暴言を吐かれたことがあるので知らないコンテンツはとても不安でした。
そこでちょうどいたナイトくんを誘い、一緒に行くことになりました。
彼女はとても下手くそでしたが、ナイトくんは女性との付き合いを知らないために肯定しかできず、終始褒めたり悪いところを指摘せずに無事クリアしました。人生で初めて自分に近づいてきてくれる女性を否定して失うことはとても恐怖になっていました。
彼女はなんとなく自分が失敗したと思っていましたが、ナイトくんが褒めてくれるので大丈夫なんだと自信を持つようになりました。彼はいい人なのだから。
それからも彼は、最新の装備や可愛い家具やミニオンをくれたり、コンテンツに誘ってくれるようになりました。彼女は断りませんでした。不都合がなかったので好意を喜んで受け取り、ナイトくんも笑顔になりました。
彼女はある日かわいい武器を見つけました。ナイトくんに尋ねるとそれは極コンテンツの報酬だそうです。『私も行きたい!』彼女は即座に答えました。
彼女はそれはそれはもう下手くその極みでした。極だけに。ナイトくんとその友人の協力で無事クリアしました。ナイトくんは全肯定してくれるので彼女は自分の実力に疑念を抱くことはありませんでした。
彼女はある日、最近加入したLSで話していると、みんな零式というレイドコンテンツに行っているようです。やれ何層が難しかった、無事クリアできた、自分の武器が出た、マウントもらった、などなどの会話に彼女は周りとは違うという少々の疎外感、多数派と同じものがいいというバンドワゴン効果が働きました。
『ナイトくん、私零式に行きたい』
ナイトくんの顔は引きつりました。幸いゲームなので本人にはバレませんでした。
彼女は自分が大丈夫だと思っています。しかしナイトくんは彼女を極10周させるのに友人に手伝ってもらったものの、まともに生きてクリアしていない上に他人に悪気なく下手くそだねと言ってしまったり自信満々、更にはお礼も言わない彼女と彼女を肯定し続けるナイトくんに友人たちは不信感を覚えていました。
もう友人はあてにできないナイトくんは、PT募集を立てて零式に出発しました。
しかしお世辞にも適正なプレイスキルを備えていない彼女に、集まった人は不信感を覚えました。それでもまずはやんわり指摘やアドバイスを重ね、目的成就に前向きに皆は動きました。
『ナイトくん、みんな私のこと嫌いなの?』
しっかりできているはずの彼女は、いわれのない発言に不満を感じていました。
ナイトくんは完全に板挟みになりました。
皆はまっとうなことを言い、しかも攻略に前向きである。しかし彼女を否定したら彼女を失ってしまうかもしれない。
ハゲデブチビ†おたく†の自分に人生最初で最後の近づいてきた母親以外の女の人だ。もうこれを逃したら今後はきっとない。絶対に失ってはいけない。
ナイトくんは彼女をかばい続けました。10秒後に黒魔道士が抜け、1分後には全員が抜けていきました。
ナイトくんはゲーム内チャットで話しても、SNSで何かを言っても反応してくれる人が目に見えて減りました。
しかし彼は腹をくくっていました。あの子は俺がついていないといけない、俺はあの子のために生きる卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍卍。
彼女は最近ナイトくんが煩わしくなってきました。
とてもいい人だったのだけれど、四六時中絶対に横にいるようになり、ギャザラーをやっていてもメインクエストをやっていてもついてくるようになりました。
ナイトくんは焦っていました。最近物をあげてもそっけなく、目に見える好感を得られなくなりました。もっと大きいものをあげないといけないと思い、Lハウスを買う資金を調達し始めました。
彼女は最近FCのオスラ暗黒くんに偶然FATEで助けてもらいました。少し話してみるととても会話が面白い人で、本能バカ娘は暗黒くんに絡みに行くようになりました。
ナイトくんは冷や汗をかいていました。彼女が暗黒と遊んでいる、一緒にダンジョンに行っている、足元が崩れて行く感覚に陥りました。
暗黒くんも実は†おたく†でした。この娘がナイトくんとえらくべったりなのは当然知っていましたが、ある日ナイトくんが隠しきれないジェラシーをもって自分に寄ってきたことで【優越感】を持ってしまいました。暗黒くんはナイトくんに対してマウントを取り始めてしまいました。
ナイトくんは怒り狂い、彼女はもうナイトくんに対して怯えています。もう何をしてもだめだと思ったナイトくんは彼女に『今まで上げたもの全部返せ』と要求します。
彼の贈り物はプレゼントではなく【投資】だったのです。
流石に周りになだめられたものの、恥を晒しまくったナイトくんはFCを抜け、Manaにサーバー移動(伝統)しました。
暗黒くんは勝利の余韻を噛み締めましたが、彼もまた母親以外を知らない†おたく†。
この日から暗黒くんはナイトくんと同様、好感を得るためにものや行動を貢ぎ始めました。一体どうなるでしょう。
人間は一度上がった生活水準をなかなか戻せません。
そろばんは偉大な道具ですが、電卓を使い始めた人間がそろばんを使えるでしょうか。
彼女はうまく言葉にはしていませんが、どのような髪型や服装にすると男性から好感が上がるか薄々感じていました。
そして欲しい物や行きたいコンテンツ、やりたいことがあれば、男性の好感を得ていれば実現することも体感していました。
調べて、お金を稼いで、時間を使って、本来やるべきことが、tell一本で済むのなら、tellをする、これに陥ったら抜けられるでしょうか。
彼女は悩んでいました。
彼女も女性。男性から愛を囁かれたり褒められることに快感を覚えます。
すこし際どい話をしたりすると、男性が寄ってきます。彼らは自分を褒め、しかも物をくれ、目的実現までしてくれます。
しかし、色目を使っても半数の男性は一定以上には近づいてきませんし、もう半数の男性は恐怖を覚えるくらい迫ってきては将来を誓ってくれるのに、途中からナイトくんのように豹変し、一緒にいることが辛くなりました。
迫ってくる男性から逃げるために、FCやLSから逃げ出し、サーバーも変えて彼女はひたすら好感を得る行動を繰り返しました。
でも、いつまでたっても同じことにしかなりません。願わくば特定の男性と結ばれたりしたいのに、魅力的な人は一線を引かれ、変な人がつきまといます。
でも彼女は、今更自分で努力を重ねて目的達成はできません。スキル回しや金策などを勉強しようとしたこともありましたが、この服を着てニャンと言えば叶ってしまうのでやめました。
タワマン暮らしが四畳半には戻れないのです。
立派なhimechanが出来上がりましたね。ナイトやめろ。